J.S. バッハ「インヴェンション第1番」解説

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J.S. バッハ「インヴェンション第1番」解説と当時の演奏法
ギターアレンジと装飾音を中心に
Invention 1

フレージングとアーティキュレーション

まず、新音楽辞典(音楽之友社)によるとフレージングとは「フレーズの切り方のこと」(※12)で、フレーズとは「旋律線の自然な区切りをいい、散文における節ないし文に相当するもの。」(※13)とされています。また、ヘルマン・ケラーはフレージングを「詩における詩句の一行、散文における一つの単純な、それ以上分けられない文章と同じものと理解される」(※14)としています。フレージングは解釈により一様ではありませんが、ここではフレーズの始まりを(「 )で、軽く切って読点のような役割を( ,)で表しフレージングを試みました

アーティキュレーションとは、新音楽辞典(音楽之友社)によれば「1フレーズ内の旋律をより小さな単位に区切り、それにある形と意味を与えること(たとえばスタッカートに奏するとか、レガートに奏する、など)。」(※15)とされています。

パウル・バドゥーラ=スコダによるバッハのアーティキュレーションの基本は、次のようにまとめられると思います。順次進行は総じてレガートになるのに対し、広い音程や跳躍はノンレガートで演奏されること。「非和声音とその解決」に由来するレガートがあること。オクターブの跳躍は、ほぼ例外なくレガートにならないこと。三和音の分散型は、とりわけアレグロやフォルテにおいて、通常ノンレガートか(フィンガー)スタッカートで演奏されること。(※16)また、ヘルマン・ケラーも「2度はつなぎ、中位の音程をポルタートで軽く切り、大きな音程(これはその特色を表わして'跳躍'と呼ばれる)をはっきり切って奏くのが最も自然なアーティキュレーションである。」(※17)と述べています。

ですので、2小節目1拍目の2つのソ、6小節目4拍目の2つのレ、14小節目3拍目、4拍目と15小節目1拍目は切って奏されるとよいと思います。21小節目4拍目のソはギターの音域上オクターブを変更しましたが、本来ソ―ソはオクターブの跳躍となりますので、ここも切って奏するとよいと思います。

またバドゥーラ=スコダは、落ち着いた雰囲気の楽章において、多くの場合八分音符で書かれた「歩むように進行するバス」はノンレガート(短すぎないスタッカート)を利用した上で、表情豊かな旋律として弾かれると述べています。(※18)ですので、下声のa1の拡大や反行拡大の箇所はノンレガートで奏するとよいと思います。

※12、「フレージング」.目黒惇編.『新音楽辞典 楽語』.音楽之友社,1977,p.516.
※13、「フレーズ」.目黒惇編.『新音楽辞典 楽語』.音楽之友社,1977,p.516.
※14、ヘルマン・ケラー.『フレージングとアーティキュレーション―生きた演奏のための基礎文法』.植村耕三,福田達夫共訳.音楽之友社,1969,p.21.
※15、「アーティキュレーション」.目黒惇編.『新音楽辞典 楽語』.音楽之友社,1977.,p.12.
※16、パウル・バドゥーラ=スコダ.『バッハ 演奏法と解釈―ピアニストのためのバッハ』.今井顕監訳.全音楽譜出版社,2008,p.133.
※17、ヘルマン・ケラー.『フレージングとアーティキュレーション―生きた演奏のための基礎文法』.植村耕三,福田達夫共訳.音楽之友社,1969,p.47.
※18、パウル・バドゥーラ=スコダ.『バッハ 演奏法と解釈―ピアニストのためのバッハ』.今井顕監訳.全音楽譜出版社,2008,p.135-136.


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